So-net無料ブログ作成

タコマ橋の落橋事故に思う

タコマ橋というのは,米国ワシントン州のタコマ海峡に架かる吊り橋です。 旧の橋は,竣工後間もない1940年7月11日に,わずか風速10m位の横風で破壊され,落橋してしまいました。

この事故は,現在では「技術者倫理」で良く取り上げられる一種の教材になっています。

この事故原因には,風との「共振」により壊れたという指摘もあるようですが,これは間違いです。共振というのは,振動物の固有振動数と外力の振動数とが一致した際に起こる大きなゆれの事ですが,風の渦などの複雑な仕組みはあるにしても,風は振動的な外力ではありません。

この橋に起こったのは「自励振動」というものですが,ちょうど,ヴァイオリンの音が鳴る仕組みと同じようなものです。綺麗な音色を奏でる楽器と原理が同じというのも皮肉なものですが,「自励振動」は振動的でない入力から,振動が発生するのが特徴です。自励振動には「負性抵抗」というものが関与します。

普通,抵抗力というものは速度が速まれば大きくなります。速度に比例した抵抗力が発生することを比例抵抗と言い,抵抗が定数で表される事になります。風速がどんどん速まると抵抗力は2乗3乗で寄与することもありますが,何れにしてもそれは正の抵抗です。

負の抵抗というのは,そのまま解釈すれば,正の抵抗がエネルギーを消費するものなので,エネルギーを生み出すものになってしまいますが,ここでいう負性抵抗はそうでなく,正の抵抗の中に,速度に対して負の傾きを持つ部分の事を言っています。速度に対して負の傾きを持つ抵抗があれば,速度が上がると抵抗力が下がりますから,正の抵抗力で持って行かれたものに戻りを与える事になります。スティック・スリップ振動というもので機械系の技術者の方ならおなじみのものでしょう。

風の場合は,やや複雑でしょうが,「横に持って行かれる→抵抗力が弱まって戻る」というサイクルが橋の横風に対する負性抵抗の存在によって起こります。そしてこの揺れは,自励振動の原理からすれば必ずしも固有振動で起こるものではありませんが,負性抵抗の及ぼす非線形項が振動系を大きく拘束しない場合は,ほぼ固有振動数で起こりますので,共振との誤解はその辺で起こるのでしょう。ねじり剛性を高めて固有振動数を上げれば,かりに自励振動がおこっても,変形量は減って破壊に至らない事になるでしょうし,自励振動自体が起こらない条件になるとも考えられます。

ここでは原理的な事を述べただけで,実際の設計には様々な工夫がなされるのでしょう。橋自体に摩擦力などの強力な正減衰を付加する仕組みを聞いた事があり,実際瀬戸大橋の設計に取り入れられたとの事でした。




以上は原理や簡単な技術面の解説なのですが,この事故を倫理面でどう捉えるかという問題になりますと,技術面とはまた異なった,あるいはそれ以上に面倒な事になります。

まず,この設計者は,責任を問われるかどうか?という事です。
おそらく平均的日本人にこれをアンケートすれば,「責任はある」が過半数を占めるのではないかと思います。

この問いに正解は無いと思いますが,技術者倫理の立場に立てば,これは責任追及すべきでないと私は考えます。

なぜならば,設計者は与えられた仕様に基づき,納期・コストなどを勘案して当時の最新の知見に基づき最善の設計をしたはずだからです。神ではない人間技術者は,その良心に基づき最善を尽くす事しか出来ません。責任追及に重点を置けば,自己防衛の為その真相を語らなくなります。それでは技術の進歩に繋がりません。

強いていえば,技術者の勘の様なものが働かなかったので,結果論としては未熟だった,とも言えます。しかし,この失敗のお陰で,世界中で発生する可能性があった吊り橋事故を,「上手い失敗」で納めた,とも言えます。

新しいチャレンジに失敗はつきものです。安全第一に考えるならば,新しい技術は採用しないのに限ります。小失敗を重ねて,十分に枯れた技術のみを使うということです。新しい技術にトラブルはつきものですから。しかし,コストや仕様上の制約もあった上で,敢てチャレンジをしたのでしょう。自然現象は,関わる人間のプライドや体面とは全く別に起こるものです。大きな自然現象の前に,人間の姑息な都合を入れると悲惨な事になります。そのことは,チャレンジャー号の爆発事故調査に参加した,物理学者のファインマンが指摘しています。個人レベルで考えれば当然なことであっても,このような巨大な組織となるとノーベル賞学者に語らせなければいけなかったのです。

人類の失敗には,学ぶべきものが沢山あります。責任追及の前に,原因を徹底的に調べることです。技術の問題よりも組織の問題ならば,これも当然解明し改善すべきです。

1950年代に頻発したコメット号の墜落事故も失敗事例として良く取り上げられます。当時は繰り返し荷重による「金属疲労」という考え方が無く,むしろこれらの事故によって発見されたのでした。借り物の技術を本物にするためには,徹底した事故原因の究明が必要なのです。そこで最も障害となるのが,人間の体面の重視です。技術者倫理面で最も難しい点でしょう。むしろ技術者倫理だけでは無く管理者の倫理や経営者の倫理との連携・調整が必要なところでしょう。
nice!(1)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 2

Ujiki.oO

So-netブログ在籍中はお世話になりました。
So-netプロバイダーの解約によって、7月末にSo-netブログは削除されました。
Nice!を戴いたことを感謝して、
「 So-netブログ 転出 Movabletype 」の3ワードで Google検索しますと、わたしの fc2 や WP の記事がトップページに表示され、So-netプロバイダーをキャンセルする前に So-netブログを転出させる方法を解説しております。
色々とありがとうございました。
by Ujiki.oO (2018-08-09 20:54) 

Ujiki,oO

So-netブログ在籍中はお世話になりました。
「削除されたSo-netブログのタイミングで、お世話になった方々への挨拶」記事に書きましたが、
記事内の「Google検索トップページに現れないSo-netブログの記事がある」項で心配しておりました。

 目出度く! 本記事が Google検索トップページに現れました。 Enrique さんのメインページこそがGoogle検索トップページに現れないのが困ったことです。。。。 それとも「わたしが気付かないミス」なら良いのですが ・・・・・
by Ujiki,oO (2018-08-17 12:21) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

×

この広告は1年以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。